普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の違いと活用方法

1.普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約

物を貸して賃料をもらうことを約束する契約を賃貸借契約といい、賃貸借契約については民法に規定があります。
しかし、建物の賃貸借については、借家人保護の見地から借地借家法という特別の法律があります。このため、まず借地借家法が優先的に適用され、借地借家法に特に規定のない部分について、民法が適用されます。

この借地借家法では、建物の賃貸借について、主に普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の2種類の契約を定めています。この2つの契約数を比較すると、普通建物賃貸借契約が圧倒的に多く、定期建物賃貸借契約は、2000年3月より認められた契約であり、その詳細も一般の方には、なかなか理解されていないのが実情です。

2.普通建物賃貸借契約の特徴は?

普通建物賃貸借では、賃借人保護のために契約の存続が強く保障されているところに特徴があります。すなわち、普通建物賃貸借契約では、契約期間を決めるのが一般的ですが、このように契約期間が決まっている場合、賃貸人が契約期間満了時に契約を更新したくないときは、予め賃借人に対して、更新拒絶の通知をしなければなりません。この更新拒絶の通知をしないまま契約期間が満了すると、契約は法律によって当然に更新されてしまいます。これを法定更新といいます。

また、賃貸人が更新拒絶の通知をした上、契約期間が満了したにもかかわらず、明け渡しをしてもらえない場合、賃貸人は、賃借人に対して速やかに異議を述べなければなりません。加えて、賃貸人の異議には正当事由がなければなりません。正当事由とは、賃貸人が自ら賃貸建物を使用しなければならない事情や建物の継続利用が客観的に困難な場合ですから、正当事由が認められることはほとんどありません。
賃貸人が異議を述べなかったとき及び賃貸人が異議を述べたけれども正当事由がなかったときは、賃貸借契約は法律によって当然に更新されてしまいます。これも法定更新です。
さらに、賃貸人と賃借人が上記の借地借家法の規定に反する賃借人に不利な契約を結んでも、その契約は無効となります。

3.定期建物賃貸借契約の特徴は?

定期建物賃貸借は、契約期間が満了すると契約の更新はなく、確定的に契約が終了するところに特徴があります。普通建物賃貸借契約の場合、上記1で説明したように、契約期間が満了してもほとんどの場合法定更新となってしまうため、賃貸借契約が極めて長期間存続し、賃貸人にとって大きな負担となっていました。そこで、借地借家法では、書面による契約や賃借人への説明・書面交付などの手続きを踏むことを条件として、契約期間の満了により確定的に終了する定期建物賃貸借契約を認めました。
定期建物賃貸借契約の特徴は下記の通りです。

  1. 契約で定めた契約期間が終わると契約は必ず終了し、契約の更新はありません。
    但し、賃貸人と賃借人、同じ部屋について改めて賃貸借契約を締結することは可能です(再契約)。しかし、この契約は、前の契約の更新ではなく、あくまで全く新しい契約です。
  2. 必ず契約期間の定めのある賃貸借契約でなければなりません。ただし、契約期間の短期と長期に制限はありません。
    定期建物賃貸借契約は、契約期間が終わると契約が必ず終了するというものですから、契約期間の定めがなければ成り立ちません。
  3. 賃貸借契約書に賃借人からの中途解約を認める条項がない場合、賃借人は契約を中途解約することができません。普通建物賃貸借契約の場合、中途解約の申入れから解約予告期間中は契約が継続するとするか、解約予告期間の家賃をペナルティとして支払うかのどちらかを条件として、賃借人からの中途解約を認めるのが普通です。しかし、定期建物賃貸借契約では、このような取り扱いをする必要はなく、借地借家法の定める特別な事情がある場合を除いて、賃借人の中途解約は認められません。
  4. 契約に賃料の額の自動増減に関する定めがある場合は、無条件に有効です。
    普通建物賃貸借契約では、賃貸借契約書の賃料自動減額条項は有効ですが、賃料自動増額条項は、その条項の結果、家賃が近隣相場からかけ離れてしまい、賃借人が不当に高い家賃を取られるようなものでなければ有効と考えられます。
    しかし、定期建物賃貸借契約では、賃貸借契約書の賃料自動増額条項は、上記のような制限はなく無条件に有効です。

 

賃貸人にとってのデメリットとは何でしょうか?

1.定期建物賃貸借は契約の仕方や管理が面倒

定期建物賃貸借契約は、契約の仕方や管理が普通建物賃貸借契約より、多くの手順を踏みます。まず、契約の締結ですが、定期建物賃貸借契約は、必ず書面で契約しなければなりません。この点は、普通建物賃貸借契約でも、ほとんどの賃貸人が契約書を作っていますので、特に問題ではないかもしれません。
しかし、定期建物賃貸借契約では、契約書の中に、「この賃貸借契約は契約の更新がなく、契約期間が満了すると必ず契約が終了してしまうこと」を明記しなければなりません。加えて、契約の締結に当たって、事前にこの記載された書面を、契約書とは別に賃借人に対して交付して、説明をしなければなりません。なぜなら、一般的に不動産知識に乏しい入居者が認識の違いにより住居を失ってしまうことのないように入念に説明しなければならないからです。
次に契約の管理ですが、定期建物賃貸借契約のうち契約期間が1年以上のものについては、賃貸人は、契約期間の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して、契約期間の経過によって契約が終了することを通知しなければなりません。この通知をしないと、契約期間が満了しても、一定期間は契約が終了しません。

2.契約期間に終わりがあるので、契約を躊躇することがある

これから契約を締結する入居希望者にとっては、契約期間が満了すると必ず契約が終了するというのは、かなり不安なものです。
たとえば3年契約の場合、3年後に自分がどういう状況にあるか確実に予測できる入居希望者はほとんどいません。そうすると、3年後に、やっぱりこの部屋に住み続けたいということもあり得るので、3年で必ず契約が終了し、出ていかなければならないという契約には躊躇するはずです。この結果、最終的に、入居希望者が契約に至らず、なかなか賃借人が決まらないということになりかねません。加えて、借主は自らの意志に反して退去しなければならないリスクを勘案しなければならないため、一般的に普通賃貸借契約と比較して低い家賃での貸出となるのが一般的になります。

  

逆に賃貸人にとってのメリット、定期建物賃貸借契約を採用するケースはどのような場合でしょうか

1.期間が明確なので一時的に貸し出しをしたい場合に有効

例えば持ち家で、1年程度の旅行等の期間だけを貸出したい時、従来の普通賃貸借契約であればいくらルールを定めても対抗されてしまう可能性がありましたが、定期建物賃貸借契約を活用することにより、必ず貸主に戻ってくる契約を結ぶことができます。

2.テナントの選定を時間をかけて見極めたい際に有効

事業用において一番活用される理由です。定期建物賃貸借契約の場合、貸主都合でテナントを追い出す理由を作ることができるため、あらゆるシーンを想定して採用することができます。
例えば飲食店を誘致したけれども、近隣からクレームが酷かったり、ルールを守らないテナントだった場合に、契約期間満了で追い出すことが可能となります。

3.貸出賃料の見直しをすることが可能

前項と似たようなお話になりますが、経済情勢等でテナント誘致が難航する状況で、一定期間だけ賃料を安くして募集する方法として活用することができます。
契約期間満了後、当該テナントに適正賃料を打診して再契約していただいても良いですし、テナントを入れ替えて適正賃料に修正することも可能です。数年間は想定よりも低い賃料での貸出になりますが、ゼロよりも良いと考えられる場合には有効かと思います。

4.対テナントへの対抗手段として有効

テナントが継続して入居したいビルであればあるほど、対テナントへの対抗手段として重みがでてきます。
普通賃貸借契約であれば、テナントが継続していきたい限りは更新を続けられますが、定期建物賃貸借契約において契約満了後の再契約をするためには、貸主、借主双方の意志の合致が不可欠です。
言い直せば、借主は継続して入居していきたいのであれば貸主に再契約をしたいと思わせなければいけないため、実質的な継続入居の主導権を貸主が握ることが可能となります。
魅力的なビルであればあるほど、再契約における交渉は優位にたてるかと思います。


普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約にはそれぞれメリット、デメリットがあります。最後に特徴的な違いをまとめましたので参考にしてみてください。

 

定期借家契約と普通借家契約の比較

 定期借家契約普通借家契約
1.契約方法(1)公正証書等の書面による契約に限る
(2)さらに、「更新がなく、期間の満了により終了する」ことを契約書とは別に、あらかじめ書面を交付して説明しなければならない
書面でも口頭でもよい
2.更新の有無期間満了により終了し、更新 されない正当事由がない限り更新される
3.建物の賃貸借期間の上限制限はない2000年3月1日より前の契約 20年まで
2000年3月1日以降の契約  制限はない
4.期間を1年未満とする建物賃貸借契約の効力1年未満の契約も可能期間の定めのない賃貸借契約とみなされる
5.建物賃借料の増減に関する特約の効力賃借料の増減は特約の定めに従う特約にかかわらず、当事者は、賃借料の増減を請求できる
6.借り主からの中途解約の可否(1)床面積が200㎡未満の居住用建物で、やむを得ない事情により、生活の本拠として使用することが困難となった 借り主からは、特約がなくても法律により、中途解約ができる
(2)上記(1)以外の場合は中途解約に関する特約があればその定めに従う
中途解約に関する特約があれば、その定めに従う
建物賃貸借契約に関するご相談はこちら

■参照:賃貸借契約締結から契約開始までにテナントが解約を申入れた場合の注意点

■参照:普通賃貸借契約における既存テナントへの立ち退きを求めるには

 

 

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By | 2017年1月17日

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